10数年前までは、今住んでいるところよりも2キロほど海に近い所に住んでいた。
家から海までは200メートルくらいだ。
数キロに渡って松林が続き、遠浅の海岸には広い砂浜が広がっていた。まさに、白砂青松という表現がピッタリの代表的な日本の海岸線だ。
当時、広い砂浜は私たち子供の絶好の遊び場で、夏休みともなれば1日中海で過ごす日もあった。
遠浅の海に広い砂浜はウミガメにとっても絶好の産卵場所であったらしく、初夏から盛夏にかけてはしばしばウミガメが上陸し、砂浜に穴を掘って産卵をしていった。
海に遊びに行くと産卵のための上陸したウミガメの足跡があり、足跡の行き着く所を少し掘ると産み落とされた卵をたくさん見ることができた。
真っ白で形はまん丸、ちょうど白いピンポン玉が何十個と転がっているようであった。
触ってみると表面はぶよぶよとして少し柔らかく、砂浜で落としても割れるようなことはなかった。
いくつか取り出して、ボール代わりに投げ合って遊んだりもした。
そのうちに捕り損なって手の中で割れてしまうと、にわとりの卵よりも一回りほど小さな、やや色の濃い黄身が出てきた。
これだったらにわとりの卵と同じように食べられそうだと思って、いくつか家に持ち帰って目玉焼きにして食べてみた。十分食用になる味だった。
(しかし、その後はウミガメの卵を取り出して食べたことはない)
ある時、孵化した子ガメがたくさん砂から這い出して一生懸命に波打ち際に向かって這って行くのに出会った。
その時、どうしてどの子ガメもみんな海に向かって這って行くのか不思議に思った。1匹も他の方向に行くことがない。波の音が聞こえるのだろうか?波打ち際に向かって傾斜しているからだろうか???
家に帰って両親に聞いてみたが、どうもはっきりしない。
そこで、自分で確かめてみようと考えた。とりあえず家の庭でウミガメを孵化させてみて、海の方向に這い出すかどうか調ることにした。親に聞くと、ウミガメの卵はおよそ2カ月(60日)で孵化するということだった。
早速実行することにして、産卵のために上陸するウミガメを待った。
幾日待っただろうか。やっとウミガメが来て、5個の卵を掘り出してきた。
そこからが大変だった。まず卵を埋める場所選びだ。できるだけ海岸の産卵場所に近い状態にするために、南向きに開けた日当たりの良い場所を選んだ。
場所が決まると、そこに直径30~40センチ、深さ50~60センチの穴を掘った。子供にとっては大変な作業だ。
(家族は、また何か変なことをしているくらいに思っているのか、ほったらかしで全く見向きもしない)
次は砂だ。土の中に埋めたのでは固まってしまって子ガメが這い出せないだろうと考えて、海岸の砂を持ってくることにした。バケツを持って家と砂浜とを何往復もした。
やっと卵を埋め戻すと、埋めた場所の印として棒を立てた。そして、カレンダーにしっかり丸印を付けた。
これから60日待つのだと・・・。
それからは毎日埋めた場所を観察しながらカレンダーに×印を付け続けた。
50日が過ぎた頃からそわそわと落ち着かなくなった。夜の間に這い出して来てどこかに行ってしまうといけないと思って、埋めた場所の上を大きく金網で覆った。
やっと60日目になったが変化はない。
60日が幾日過ぎただろうか。随分長かったように思うが、気の短い私のことだから、実際はほんの2日か3日だったのだろう。
待ちきれなくなった私は、意を決して埋めた場所を掘り返すことにした。
大きなスコップを持ちだして、埋めた場所を思い切り掘り始めた。一心不乱に掘り進めていると、スコップの先に何かが当たった。
あわててスコップを置いて、手で掘った。
割れた卵があった。中に子ガメがいる。が、スコップの先で押しつぶされて割れた卵の中で死んでいた。
もう1日か2日待っていれば子ガメが這い出してきたはずだった。
掘った穴はそのまま埋め戻され、埋めた場所の印に立てていた棒きれはそのまま子ガメの墓標になった。
その後再びウミガメを孵化させようとすることはなかった。
今ではウミガメの産卵などすっかり見られなくなり、珍しくウミガメが産卵に来るとテレビのニュースになったりする。
かつてウミガメが上陸した白砂青松の海岸は、今では海の家が乱立し、大きな防潮堤が造られ、砂浜は半分埋め立てられて広い有料駐車場になっている。
海岸で遊ぶ子供たちを見ることも滅多にない。
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