小学校5年生の時だったと記憶している。
その日もいつものように座敷に工具を持ち込んで何かを作ろうとしていた。(何を作っていたのかの記憶は全くない)
その時使っていたのは刃の長さが10センチくらいのナイフで、刃先が大工道具の平鑿(のみ)のような形をしていた。
そのナイフの先を突き立てるようにして何かを押し切ろうとしたのだった。(それが何だったかもやはり覚えてはいない、その後に起こったことが重大すぎた)
その物を左手で支えて、それにナイフを立てると思いきり体重をかけた時だった。その物がグラッと傾いてナイフの先が支えていた左手の中指の指先を突き刺した。
指先から血が噴き出したので、あわてて指先を口にくわえて縁側に走った。(瞬間、座敷が血だらけになると怒られるだろうと思ったのだ)
縁側に出て外に首を突き出すと、恐る恐るくわえていた指を口から出して見た。
真っ赤になった1センチくらいの指先が今にも取れそうにつる下がっていた。そこには白く指先の骨が見えていた。
あわてて、その取れそうになった指先を元の位置に押さえつけて口にくわえると、急いで救急箱からガーゼと包帯を取り出してきた。
指先をガーゼで押さえつけるように覆うと、その上から包帯でぐるぐる巻きにした。
とりあえずそこまでしたところで、座敷の血を拭き取って、広げていた物を片付けた。
どうしたものかと思案したが、指先が取れそうになっているなどと親に言ったら怒られるだろうと思って、ちょっと指先を切っただけだと言っておいた。
出血を抑えるために包帯で指をきつく縛っていたので、そのままでは血流が止まって指がだめになってしまうと思い、落ち着いたところでもう一度縛りなおすことにした。
指先が取れてしまわないように慎重に包帯をとくと、キズ口の周辺をもう一度きれいにして、ガーゼと包帯を交換した。
血流が悪くなって紫色になった指は全体が痺れるようで感覚がなかったが、一応指先は元の位置に貼り付いていた。
3カ月くらいはそんなふうにして、自分で包帯を取り替えていたように思うが、もっと長かったかも知れない。
交換のたびに指先の様子を心配しながら観察した。
最初は紫色だったが、しだいに色が薄くなって、白っぽくなっていったので少し安心した。紫色のままだったら指先が壊死してしまうと思っていたからだ。
なんとなく指先は付いて、血が通っているような感じになったが、指先のその部分だけはいつまでも色が白かった。やはり血流が悪いのだろうと思った。
感覚も全くなく、針を刺しても痛くも痒くもなかった。血流はもどってきても、神経は切れたままのようだった。
全く感覚のない指先を保護するためもあって半年ほどは指に包帯を巻いていたが、相変わらず痛くも痒くもないながらも、なんとなく物に触れる感覚がもどってきたところで包帯をするのをやめた。
しかし、その指先に、他の指と同じような感覚がもどってくるのにはもう4~5年かかった。
人間の体もかなりトカゲに近いと思った。(どうせならトカゲのように再生すればいいのに・・・)
今でも左手の中指の先に、指の径の3分の2程が切れた傷跡がくっきりと残って、指先の形も少しゆがんでいる。
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